大人のジャケットは、 もっと軽やかでいい。

文 翔太
文 翔太 (ムン サンテ) | ESSEVEスタッフ・クラシックドレス担当


ビジネスシーンではもちろん、休日のカジュアルな装いにも取り入れたいテーラードジャケット。

シャツにネクタイを締めた正統派の着こなしも素敵ですが、デニムやコットンパンツ、あるいはニットやカットソーと合わせて、もう少し気軽にジャケットを楽しむのもいいものです。

ただ、いざ手持ちのスーツの上着をカジュアルなパンツと合わせてみると、なんだかしっくりこない。そんな経験はありませんか?

実は僕自身も、ずいぶん昔に同じような経験をしています。今回は、そんなジャケットの印象を大きく左右する「仕立て」のお話。なかでも、イタリアらしい軽やかな仕立てを代表する、アンコンジャケットの魅力についてご紹介したいと思います。




「なんか違う?」その答えは仕立てにありました。

僕がまだ中学生だった頃の話です。当時から父親の影響で洋服が好きだった僕は、よくメンズファッション誌を眺めていました。

雑誌に載っている、ジャケットにデニムやコットンパンツを合わせた大人の着こなし。それがなんとも格好よく見えて、ある日こっそり父親のクローゼットからスーツの上着を取り出して、真似してみたことがあります。

ところが、鏡の前に立ってみると、どうも雑誌で見たような雰囲気にならない。「なんか違うな……」

もちろん、当時はまだ中学生ですから、サイズが合っていなかったことも大きな理由でしょう(笑)

ただ、今になって振り返ってみると、そこにはサイズやシルエット、生地感だけではない、もっと根本的な違いがありました。それが、ジャケットの仕立て方です。

同じテーラードジャケットという形をしていても、ビジネススーツの上着と、カジュアルな着こなしを想定したジャケットでは、服の持つ雰囲気が大きく異なります。アンド、その違いを生み出す重要な要素の一つが、表からは見えない芯材の存在なのです。


ジャケットの印象を左右する「芯材」の重要性

スーツやジャケットには、一般的に芯材(芯地)と呼ばれる副資材が使用されています。シングルかダブルか、スーツか単品のジャケットかを問わず、テーラリングにおいて非常に重要な役割を担うものです。

芯材を簡単に説明するなら、服の骨格を作るためのもの。例えば、胸元に生まれる立体的な膨らみや、ラペルが美しくロールする曲線。あるいは、英国調のスーツに見られる、鎧を纏ったような堂々としたシルエット。

もちろん、これらは型紙や裁断、縫製技術などがあってこそ成立するものですが、その美しい形を内側から支えているのが芯材です。

芯材には、胸元やラペルに適度なハリとコシを与えて立体的なシルエットを作ること、着用を繰り返しても型崩れしにくくすること、必要な部分の伸びや歪みを抑えること、といった役割があります。

つまり、芯材は単にジャケットを硬くするためのものではありません。服の美しさを支える、非常に重要な存在なのです。ただし、芯材が多く入っていれば、それだけ良いジャケットになるというわけでもありません。


イタリアらしい軽やかな仕立て「アンコンジャケット」とは?

アンコンとは、英語の「Unconstructed(アンコンストラクテッド)」を略した呼び方で、一般的には芯材や肩パッドなどを極力省き、軽やかに仕立てたジャケットを指します。

ただし、アンコンジャケットだからといって、必ずしも芯材が一切使われていないわけではありません。胸元に薄い芯材を使用したり、肩にごく少量の補整材を入れたりと、その構造はブランドや仕立てによってさまざまです。

大切なのは、必要以上に服の形を作り込まず、着る人の身体に自然に馴染むような仕立てを目指しているということ。

イタリアのテーラリングは英国の仕立てから影響を受けながら、土地ごとの気候や生活文化に合わせて発展しました。特にナポリでは、1930年代にジェンナーロ・ルビナッチのもとで働いたヴィンチェンツォ・アットリーニが、より軽く柔らかなジャケットのスタイルを発展させたことで知られています。

その後、1970年代にはジョルジオ・アルマーニが柔らかな仕立てのジャケットを広く普及させました。もちろん、イタリアのジャケットがすべてアンコン仕立てというわけではありません。ただ、この軽やかさはイタリアのテーラリングを象徴する魅力の一つだと僕は考えています。


現代の大人にこそ、アンコンジャケットをおすすめしたい

では、なぜ僕が今、アンコンジャケットをおすすめしたいのか。それは、現代の洋服の着こなしと非常に相性が良いからです。

例えば、デニムにハイゲージのニットを合わせたスタイル。あるいは、コットンパンツにカットソーを合わせた、少しリラックスした装い。そこに構築的なビジネススーツの上着を合わせると、ジャケットだけが妙にかしこまって見えてしまうことがあります。

もちろん、意図的にそのギャップを楽しむ着こなしもありますし、僕自身そうしたスタイルが嫌いなわけではありません。ただ、自然な統一感を求めるのであれば、柔らかな仕立てのジャケットは非常に取り入れやすいと思います。

肩のラインは自然に落ち、胸元には過度なボリュームがなく、生地そのものの柔らかさが感じられる。ジャケット特有のきちんと感は残しながらも、いい意味で肩の力が抜けた雰囲気になるのです。

ジャケットを着ることは、必ずしも堅苦しく装うことではない。ビジネススタイルが多様化した今、ネクタイを締めないジャケットスタイルや、ニットを合わせたビジネスカジュアルにもよく馴染みます。


構築的なジャケットとアンコンジャケット。その違いは?

比較項目 構築的な仕立て アンコン仕立て
肩周り 輪郭を明確に作る 自然な肩のライン
胸元 ハリや立体感を強調 柔らかく身体に馴染む
印象 端正・堂々 軽快・リラックス

構築的なジャケットは、芯材や肩パッドなどによって、胸元や肩のラインを積極的に形作ります。肩から胸にかけての輪郭が明確になり、堂々とした印象や端正な雰囲気を演出しやすいのが特徴です。

一方、アンコンジャケットは肩や胸元の構造を軽くすることで、着用者の身体に沿った自然なラインを生み出します。生地の柔らかな表情も出やすく、カジュアルなアイテムとの組み合わせにも馴染みやすくなります。

ただし、どちらが優れているという話ではありません。格式あるビジネスシーンやフォーマルな場面では構築的な仕立てが魅力になり、日常的にジャケットを楽しみたいのであればアンコン仕立ての軽快さが心地よく感じられるはずです。

大切なのは、どのような場面で、どのように着たいのか。そこから仕立てを考えることが、理想の一着への近道だと思います。


ジャケットをもっと自由に楽しむために

ジャケットという洋服は、実に奥が深いものです。一見すると同じような形でも、芯材の使い方や肩の作り方、裏地の仕様によって、その表情も着心地も大きく変わります。

かつて中学生だった僕が、父親のスーツを羽織って感じた「なんか違う」という違和感。今思えば、あれも洋服の仕立てに興味を持つ、一つのきっかけだったのかもしれません。

もちろん、英国調の構築的なジャケットには、その仕立てでしか表現できない美しさがあります。ただ、普段の生活のなかで、もっと気軽にジャケットを楽しみたい。そんな方には、ぜひ一度、イタリアらしい軽やかな仕立てを体験していただきたいと思います。

ESSEVEでは、今回ご紹介したようなアンコン仕立てをはじめ、お客様のお好みや着用シーンに合わせたテーラードジャケットのオーダーを承っております。

「休日にデニムやニットと合わせたい」「軽くて肩の凝らない一着が欲しい」など、具体的なイメージが固まっていなくても大丈夫です。仕立ての違いや細かなディテールまで、着る場面や合わせる洋服を一緒にお話ししながら、理想の一着を形にしていきます。

ぜひお気軽に、自分だけの特別なジャケットづくりをご相談ください。

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安藤ひかる
PROFILE

文 翔太 (ムン サンテ)

中学生の頃、父の雑誌をきっかけにクラシックなドレススタイルに魅了される。18歳から紳士服の世界に身を置き、国内外の上質な洋服に触れながら、販売からバイイングまで幅広く経験。現在は「エッセーヴ」に在籍。クラシックファッションの奥深さや面白さを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。
趣味は歴史を調べること、読書、運動、買い物など。